お役立ち情報 * 南チロルとドロミテ
ユネスコ世界自然遺産・ドロミテ山塊
●ドロミテ? ドロミティ? ドロミーティ?
イタリア語表記は Dolomiti ドロミーティ、ドイツ語表記Dolomiten ドロミーテン(ボルツァーノ県ではドイツ語も公用語)英語表記はThe Dolomites ドロマイツですが、日本では、ドロミテ、ドロミティ、ドロミーティ等、表記は様々です。実は、私もどれが正式な呼び方なのか分かりません。日本では、長年ドロミテという呼び方が一般に浸透していますので、ここでも「ドロミテ」と表記することにします。
イタリアアルプス東部、イタリアとオーストリア国境付近に広がる山岳地帯にあるドロミテ山塊は、2009年6月にその独特な山容、美しい自然景観、地形・地質学的価値が認められユネスコ世界自然遺産に登録されました。ドロミテは、連続的に伸びた山脈とは異なり、むしろ山塊の集まりで、巨大な城塞のような山塊は多くの渓谷により画され、島のようにそれぞれ孤立しています。ドロミテの最高峰は、マルモラーダ(Marmolada 標高3,343メートル)で、4,000メートル級の山々が連なるアルプス山脈西部とはかなり差がありますが、空に向かい垂直に切り立つ山の頂は実際よりもはるかに高い印象を与えます。
総面積は約231,000平方メートルで、ボルツァーノ県、トレント県、ベッルーノ県、ポルデノーネ県、ウディネ県の5つの県、トレンティーノ=アルト・アディジェ州、ヴェネト州、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州の3つの州にわたり、北はプステリア渓谷とリエンツァ川、東はピアーヴェ渓谷、南はベッルーノとフェルトレ、プリミエーロ渓谷とフィエンメ渓谷、西はイザルコ渓谷とアディジェ渓谷にわたり、更にアディジェ川の西側の飛び地にあるブレンタ山群をも含む、この広い領域に標高3,000メートルを超える山塊が18も聳えています。
●ドロミテの名の由来
アルプスと異なり、独特な景観を有するドロミテ山塊には、多くの地質学者が興味を持ち訪れました。1791年にフランスの地質学者デオダ・ドゥ・ドロミュー(Dèodat de Dolomieu:1750-1801)が、イザルコ渓谷にて岩石を採取し、研究したところ、炭酸マグネシウムの含有量が高い石灰石であることを発見しました。彼の名に因んで、ドロマイト又は苦灰石(イタリア語表記dolomite ドロミーテ)と名付けられ、そのドロマイトでできた山ということからドロミテ(イタリア語表記Dolomiti ドロミーティ)と呼ばれるようになりました。
しかし、ドロミテ山群全てがドロマイトを主成分とする堆積岩、苦灰岩(イタリア語表記dolomia ドローミア)で造られているわけではありません。ドロミテの最高峰マルモラーダ(Marmolada 標高3,343メートル)をはじめ、ラテマール、コスタッベッラ、ヴァッラッチャなどの山は大部分が石灰岩でできています。それに引きかえ、モンゾーニやプレダッツォ近郊は主に火成岩でできています。
●ドロミテの誕生:ドロミテは珊瑚礁だった!
ドロミテ山塊の成り立ちは三畳紀、約2億4000万年前にさかのぼります。その頃、この地域一帯は、熱帯雨林と浅くて暖かいテチス海で覆われていました。その海の底には、微生物、珊瑚、貝殻等が堆積していき、数百万年以上かけて数千メートルもの厚い堆積物の層ができていきました。新生代(約6,550万年前)に入った頃よりアフリカ大陸が北上し、ヨーロッパ大陸と接近し始めます。約4,000万年前頃に、この二つの大陸が衝突し、海底堆積物と海洋地殻が押されて地上2,000~3,000メートルまで隆起し、アルプス山脈、そして、ドロミテ山群が海上に姿を現しました。第四紀の氷河時代には、ドロミテ山群は厚さ2,000メートルにも及ぶ氷河に覆われ、その後、氷河が後退していく過程で、岩塊の表面を削り、地面を削っていくつもの深い谷が造られました。更に大気浸食により、岩塊は垂直方向に裂け、岩肌がむき出し、天を突くように岩塔が連なり、切り立った岩や峰、そそり立つ岩壁が特徴的な現在の姿のドロミテ岩峰群が形成されたのです。
●ドロミテの魅力・・・。
広大な地域に散らばるドロミテ岩峰群、その山容は見る角度、時間、季節、天候によって様々に変幻し、飽きることがありません。山腹に広がる森林や可憐な野草が咲き乱れる草原。緑豊かな牧草地には牛や馬が放牧され、農家のテラスには色鮮やかな花。お伽話に出てくるような美しくのどかな風景とは対照的に、真っ青な空に突き刺すように聳えたつ雄々しいドロマイトの岩峰。この美しいコントラストがドロミテの特徴の一つ。そして、風格があり近づき難い山貌とは裏腹に、ロープウェイやリフトで簡単に山頂まで登り、ドロミテ山塊を間近に望むことができ、山頂からの絶景を堪能できること。
その上、ドロミテには数え切れないほど多くのトレッキングコースが整備されており、ベビーカーを引いた親子から重装備で経験のある登山家まで、気軽に誰でも大自然に触れることができるのがドロミテ。山小屋で食べる温かくておいしい食事や手作りデザートも楽しみの一つ。高く聳える岩峰、針葉樹の森や林、渓流や静かな湖、野生動物、万年雪や氷河、色鮮やかな高山植物、ドロミテは、雄大な景観が広がる自然の宝庫。更に、谷間に点在する街や村々には古くからの伝統や文化を守り自然と調和し暮らす人々がいるのも、この地方の特徴です。